豊穣の森
紅花一薬草(ベニバナイチヤクソウ : Pyrola incarnata)
森の中の木漏れ日の差す一隅に群落を作る紅花一薬草 | 白花のイチヤクソウ(Pyrola japonica) |
Ericaceae Pyrolaceae Pyrola incarnata ツツジ目 イチヤクソウ科 ベニバナイチヤクソウ
森の中の木漏れ日の漏れる明るい場所に見慣れぬ厚手の葉を持つ草の群落を見かけたのは1年ほど前のことでした。
ユキノシタを小さくしたような葉の様子から不快な雑草ではないと見当をつけて様子を見ていたところ、5月初旬に赤味を帯びた蕾が膨らんできました。
しばらくして 20cm ほどに伸びた茎に可憐なピンクの花が咲いていました。
これは紅花一薬草。
名前は全草に利尿、強心、降圧、抗菌、鎮痛作用を持つ成分を含み、多様な用途の薬草となることに由来します。
学名の "Pyrola : 梨の葉のような " "incarnata : 肉色の " は葉と花の色から。
別に白花のイチヤクソウ (Pyrola japonica) があり、同様の薬効があります。
イチヤクソウは根毛が発達してなく、菌根と呼ばれる細菌が根の組織に入り込んで、水分や養分をやり取りして共生し、繁殖する型の植物との事。
調べてみると、これは植物では珍しいことではなく、多くの植物に見られます。
恐らくは太古の時代に水中から陸上に上陸した植物が強酸性や極端な乾燥地等々、過酷な土壌に根付き繁殖するために細菌との共生によって生き延びてきた名残と考えられるのだそうです。
細菌との共生は植物に限りません。
動物の腸内にも膨大な数の多様な細菌が繁殖しています。
これらの細菌も同様に消化や栄養の吸収、毒物の分解等の役割を果たしています。
近年、花粉症やアレルギー等が激増しているのは、抗生物質の乱用や抗菌商品の氾濫によって、体内の細菌との共生関係が崩れているためと、専門家が指摘しています。
長野県の十文字峠の山道沿い数百mに広がる大群落 | 北海道5月初旬の森の中で蕾を膨らませる紅花一薬草 |
イチヤクソウは寒冷な土地の林の中を好みます。
白花の一薬草は比較的に単独で生えますが、紅花一薬草はしばしば大群落となります。
しかしながら菌根性のために移植が難しいとのこと。
野生の一薬草を見つけても、そのままそっとして置くべきでしょう。
さて、我が森に何時の間にか定着した紅花一薬草は土壌が合っているのでしょう、短期間の間に数十株の群落となっています。
この土地は大石狩川河口の土砂が堆積した遠浅の海が8万年ほど昔に隆起した重粘土質に砂礫が混じる痩せた地質でした。
永年放置されていた森の中は熊笹が生い茂り,その隙間に堆積した枯れ葉によって、ふかふかの腐葉土層で覆われていました。
笹と周囲の木々の枝を刈り払った土地は、日差しが入るようになると野生の植物には理想的な繁殖地となったものです。
急速に増えた紅花一薬草の群落は、何時の日にか、長野県の十文字峠のようにさらに大きな群落に広がるかも知れません。
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