ラッパスイセン(Narcissus pseudo narcissus)


5月の連休明けの頃、札幌近郊の庭や森の中で一斉に咲き誇るラッパスイセン 
 
     
 


     
 4月5日、庭はまだ最深で60㎝の雪に覆われている 日当たりのよい斜面では10日ほど早く雪が
融けて葉の成長と共に蕾が膨らみ始める 
雪融けから一か月余り後の5月7日には高さ30㎝まで伸びて満開のラッパ水仙

クロンキスト・新エンゲラー体系による分類
 単子葉類 ユリ目  ヒガンバナ科   スイセン属   ラッパスイセン種
 Monocotyledoneae   Liliales   Amaryllidaceae   Narcissus   pseudonarcissus 
 北海道では春は4月末から5月の連休明けに殆ど初夏と一緒に訪れます。
従って、梅も桜もコブシもほとんど同じ時期に一斉に満開になります。
 水仙はスペイン、ポルトガルを中心に地中海沿岸地域、アフリカ北部に30種ほどの原種があるとのこと。
日本へは中国経由で平安時代から室町時代(400年もの時差がありますが、即ち正確な記録が残ってないということでしょう)に伝わったと考えられています。

 我が家の森や庭にも春になると20個所ほどに様々な色や大きさの水仙の群落がにぎやかに花咲きます。
さて、これらの水仙が何なのか、改めて調べてみたところ、前述のように、水仙は地中海近辺が原産ということが分かりました。 野草図鑑によると、野生の水仙は本州以南にしかないようです。
 北海道でも春になるとあちこちで見かける水仙は全て人の手で植えられた栽培種が半ば野生化したものです。
冒頭の写真の水仙も3月末まで雪に覆われていたものが、融雪後一か月程で芽を出し、成長して満開になったものです。

 これらの水仙が何か、調べてみたら、背丈が10㎝から30㎝、花の色も白と黄色と、花と副花冠の形も異なる数種のスイセンが、いずれも栽培種のラッパスイセンであると判明しました。

スイセンの学名と分類

 植物の分類は専門家でない素人にとっては気が遠くなるほど訳の分からないものですが、しかし、どんな仲間に属するのかくらいは知りたいと、何時もウィキペディアを参考にまとめているのですが、これが結構面白くもあり、また難儀することもしばしばです。
 最新のAPG分類ではスイセンはキジカクシ目に分類されています。
キジカクシという植物は図鑑を見ると余り一般的な種類ではありませんが、アスパラガスがキジカクシ目の植物といえば、北海道ではあちこちで栽培されていますから分かる方もいるでしょう。
 ただしアスパラガスは新芽を食べているので、成長するとレースのような細い葉(のように見えるが、実は茎が変化した物とのこと)が伸びてきて、どう見てもスイセンとは似ても似つかない植物です。
 現在ウィキペディアは1990年代末に採用された最新の分類法であるAPG(Angiosperm Phylogeny Group : 被子植物系統グループ)というDNA解析に基づいた進化の系統による分類法を採用しています。
 植物と動物の分類はスウェーデンの博物学者のカール・フォン・リンネ(1707 - 1778)が確立したラテン語による二名法が現在も使われていますが、とりわけ植物の分類には形態分類と呼ばれる花の形(即ち生殖器)を基準に分類する方法が確立され長く使われてきました。
 が、19世紀末に多くの植物学者が、”植物は単純な構造から複雑な構造へと進化した”という進化論を基に新しい分類法を確立し、新エンゲラー体系として、とりわけ日本では多くの植物図鑑に採用されて来ました。
 が、これに対して、原始的な構造の両性花から種々の植物群が進化したと考えるストロピロイド説が主流になり1980年代以降はクロンキスト体系と呼ばれる分類法が有力になりました。
 と、被子植物だけで30万を超える種類があるわけで、全ての植物を分類する作業には膨大な時間がかかるため、資料によって、過去の様々な分類体系が混在しているというのが現状です。
 ところでリンネが命名したラッパスイセンの種名 pseudonarcissus の pseudoとはギリシア語で『擬、偽、仮』を意味する接頭辞です。
 即ちラッパスイセンの学名の意味は ”スイセン擬き:スイセンに似て非なるもの”という奇妙な名前になります。
 しかし、どう見てもラッパスイセンはスイセン以外の何物でもなく、多くの図鑑や資料、ウィキペデイアでさえも、水仙の写真に実はラッパスイセンが使われているほどで、水仙を代表する種類といって良いでしょう。
 因みにスイセン属の学名 Narcissus とはギリシア神話に登場する美少年のナルキッソスのこと。
 彼に恋したニンフのエコーは、女神ヘーラーがニンフ達に戯れているゼウスを探しているときにお喋りで引き止め、その間にゼウスが逃げおおせるのを助けてた罪で、自分から話しかけることを禁じられ、相手の最後の言葉にだけ返事をすることしかできなくなっていました。
 そのため、ナルキッソスとの会話が出来ず、失恋してしまい、その痛手から森や山の奥で岩になり、呼びかけられた声に返事する”こだま”を返す存在になり果ててしまった。
 エコーだけではなく、他のニンフ達の思いを全て撥ねつけたナルキッソスは、ニンフたちの訴えを聞いた復讐の女神によって、恋する相手から決して受け入れられない罰を与えられていました。
 ある日、泉に写る自分の姿を美しい水の精と思い込み、恋い焦がれた果てに死んでしまい、その場所から白い葉で周りを囲まれ、内側が紫色の花が生えて来ました。
 その花が今日スイセンと呼ばれ、ナルシシズム:自己愛、という言葉の語源にもなった。

スイセンの毒に注意

 美しく魅力的な花を咲かせるスイセンですが、全草、特に球根にリコリン等の有毒のアルカロイドが含まれています。
 含まれるリコリンは致死量には至りませんが、タマネギやニラと間違えて食べて、嘔吐、下痢、痙攣等で入院するほどの事故が毎年報告されています。さらに切り花の汁にかぶれて、アレルギー発作に見舞われる例も多いので要注意です。
 


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