灰礬柘榴石 (グロシュラー・ガーネット : Grossularite Garnet)

 

多彩な色合いを見せるグロシュラー・ガーネット(ヘソナイト、ツァヴォライト)
0.28〜39.6ct

スリランカのグロシュラー・ガーネット (Grossularite from Srilanka)
1.23ct 7.9x6.8mm 0.29ct 4.6x3.1mm 1.22ct 8.2x4.1mm 0.97ct 6.6c5.1mm
       
1.52ct( 10.05x5.75mm) - 1.97ct(10.75x6.45mm) 4.10ct 12.4x8.3mm 3.96ct 10.3x8.1mm
 スリランカ産の蜂蜜色のグロシュラー・ガーネットは古来より中東やヨーロッパでヒヤシンス、シナモン・ストーンの名で愛好されてきました。 
  よく似た色合いのジルコンやサファイアもヒヤシンスと呼ばれていました。
これらの宝石が実は別の鉱物であることが判明したのは鉱物学が発展した18世紀末になってからのことでした。
 純粋なグロシュラー・ガーネットは無色ですが、極めて稀、多くは微量の不純物のマンガンや鉄による黄色、蜂蜜色,金色、橙色、褐色、赤褐色を帯びていて、ヘソナイトとも呼ばれます。
 2価の鉄イオンによるパステル・グリーンの石は、その色合いがスグリの実を喚起させるために、そのラテン語名の”grossularia” に因んで、この種の柘榴石の正式な鉱物名になりました。 
  魅力的な色合いですが、スリランカから稀に産するのみです。
 
アフリカのグロシュラー・ガーネット(Grossularite from Africa)
1.58ct 8.8x5.1mm 0.53ct 6.9x3.4mm 2.31ct 10.1x7.1mm  6.37ct 
Tanzania Kenya Mali


ツァヴォライトとグロシュラー 0.70 -3.16ct ツァヴォライト 0.70ct 結晶 10mm
Itrafo, Madagascar
  本来、無色である筈のグロシュラー・ガーネットですが、それは全く稀にしか発見されず、タンザニア産のクッション・カット、1.58ctの石は、30年余りの間にようやく遭遇した稀なる標本です。
 アフリカ各地から、黄色や金色の美しい色合いのグロシュラーが採れます。
 2002年にマダガスカル中央部のイトゥラフォで発見されたガーネットは91−94mol.% と高いグロシュラー成分を有します。
 金茶色は2%弱の酸化鉄の不純物による発色です。
 やや黄色味を帯びた濃い緑色は0.5 - 0.8%の酸化ヴァナジウムによる発色で、ツァヴォライトです。
 
カナダのグロシュラー・ガーネット (Grossularite from Canada)
       1.85ct 10.4x6.5mm 1.28ct 8.0x5.6mm 1.40ct 8.0x6.0mm  1.00ct 7.1x5.1mm
Jeffrey mine, Asbestos, Quebec, Canada
 
 カナダ東部、ケベック州には世界的なアスベスト(石綿)の鉱山が数多くあり、その名もアスベストス町の石綿鉱山からは、石綿の岩脈の空隙を埋めて世界的な水準の多彩な色合いのグロシュラー・ガーネットやベスヴ石標本を産しました。
 石綿が肺癌を引き起こすことから使用禁止となり、鉱山は全て閉鎖されましたが、現在も鉱物標本の採集は細々と続いているようです。
 宝石としてカットできるグロシュラーは、蜂蜜色のものが稀に採集されるのみですが、素晴らしく透明度の高いジェフリー鉱山産のグロシュラーのルースはコレクター垂涎の的となっています。


化学組成
(Formula)
結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
Ca3Al2(SiO4)3  等軸晶系  6½ - 7  3.57−73   1.715−755 


 世界のグロシュラー・ガーネット結晶
14x13x12mm 30x21x15mm  48x33x22mm  20x20x13mm       22x16x17mm
Jeffrey Mine, Asbestos, Quebec, Canada

ジェフリー鉱山から採れる無色、蜂蜜色、クロムを含み鮮やかな緑色のグロシュラーは、いずれも
鉱物コレクター垂涎の的であり、鉱物フェアで稀に姿を見せると、たちまち売切れてしまいます。




9mm 結晶 22x16x17mm 結晶 24x17mm
Val Malenco, Italia Wah Wah Pass, Utah, U.S.A.

 イタリア北西部のアルプスにはグロシュラー・ガーネットの産地が各地にあり、8面体、12面体等、柘榴石の結晶標本のような
様々な結晶を産します。
 アメリカ、ユタ州のワーワー峠は、宝石質ではありませんが、美しい形の淡緑色のグロシュラーの産地です。
  近くに世界で唯一の赤い緑柱石を産するヴァイオレット・クレームがあります。

 

 43x43x47mm  21x11mm 8cm 結晶 16mm
Lake Jaco, Cierra de Cruces, Mexico Vilyui River, Siberia, Russia
 メキシコのハコ湖周辺では美しいピンクや端正な結晶形を見せる大きなグロシュラー・ガーネットの結晶を産します。
 シベリアのヴィリュイ川流域で産するグロシュラー・ガーネットは全く宝石質ではありませんが、砂岩の空隙中で成長した結晶は端正な姿を見せます。


名前と産状 (Name and occurence)

  グロシュラーの名は最初にドイツのAuerbachで発見されたものが淡緑色でスグリの実の色に似ていたため、スグリの学名の ”grossularia” から1806年、ドイツの 地質、鉱物学者 A.G.Werner によって命名されました。 
  1822年、フランスの鉱物学者 R.J. Haüy が少し比重が小さな値を示す糖蜜色の柘榴石をギリシア語の ” Hesson : より小さな ” に因んで ヘソナイト(Hessonite) と命名しました。
 後に両者が同じ種類と判明し、グロシュラーが正式な鉱物名となりました。 
  ヘソナイトは今日では糖蜜色から赤褐色のグロシュラーの宝石名として残っていますが、淡いオレンジ色のグロシュラーもよくヘソナイトと呼ばれますが、名前の起源を省みれば、間違いというわけではありません。 
 和名は化学組成の灰(カルシウム)と礬(アルミニウム)の珪酸塩に因みます。
古風な和名ですが一見して成分がわかり、他の種類と識別が出来る名前は見識のある命名法です。
 グロシュラー・ガーネットはカルシウム成分に富む岩盤、スカルン、ロジン岩等が地殻変動による広域接触変成作用や熱水貫入で透輝石、ヴェスヴ石、珪灰石、柱石、緑簾石と共に生成されます。

 The name derives in allusion to Latin word "grossularia : gooseberry " for its pale green color, named in 1811, by A. G. Werner.  In 1822, R.J Haüy named orange brown garnet specy as  "Hessonite" for it's  inferior density than other garnet species ,  after  Greek word  " hesson : inferior ".
 Grossular is typically formed by the contact or regional metamorphism in Ca-rich rocks, skarns, rodingites ; hydrothermal along the cracks in these rocks, associated with diopside, vesuvianite, wollastonite, scapolite and epidote.

グロシュラー・ガーネットの特徴と産地(Characteristics and localities)

 化学組成に遷移金属を含まないので純粋な灰礬柘榴石は無色となります。
しかし柘榴石は必ず他の種類との固溶体として生成します。
  したがって一般には鉄やマンガンなどの不純物を含み淡緑、淡黄、黄金、淡紅等の美しい色合いの結晶で産出します。
 無色、淡緑、淡黄は単にグロシュラーと呼ばれますが、特徴のある色合いには特別な宝石名で呼ばれます ;
 
ヘソナイト
(Hessonite)
不純物のマンガンにより金色ー橙色ー赤褐色の色合いのグロシュラーの宝石名。
その色合いからシナモン・ストーンとも呼ばれてきました。
 スリランカ、ブラジル、マダガスカルが主要な産地です。が近年では主にアフリカ産の
高い鉄分を含み鮮やかな赤い色のヘソナイトが多数市場に出ています。

 ヘソナイトの詳細はこちらです
ツァヴォライト
(Tsavorite)
 1968年にケニアのツァヴォ国立公園で発見された、おもにヴァナジウム発色による
エメラルド・グリーンの種類。ティファニー宝石店が産地に因んで命名しました。

ツァヴォライトの詳細はこちらをご覧ください
グランダイト
(Grandite)
 1994年にアフリカ中西部のマリ共和国から美しいガーネットが発見されました。 
平均してグロシュラー成分が80%、アンドラダイト成分20%からなる新種のガーネットですが、
成分比により淡緑ー緑ー濃緑ー金色ー橙色ー褐色と多彩な色合いを示します。
 グロシュラーとアンドラダイトとの固溶体からグロシュラー・アンドラダイト・ガーネットと命名
されましたが、一般にはグランダイト、あるいは産地に因んでマリ・ガーネットとも呼ばれます。
グランダイトの詳細は
こちらです。
  

 グロシュラーライトの主要な産地はカナダ、ケベック州のジェフリー鉱山、メキシコのハコ湖、ケニアやタンザニア,北イタリアのマレンコ渓谷やピエモンテ地方、シベリアのヴィルイ川です。
 宝石質のグロシュラーの主要産地であるスリランカとタンザニアでは主に川床の漂砂鉱床に水磨礫となって発見されます。
 カナダのアスベストスのジェフリー鉱山からは無色と緑色の透明な宝石質の小さな結晶も産しますが、量も少ないためでしょう、カットされたルースはシナモン色がごく僅か出回るのみです。
 無色の宝石質のグロシュラーは極めて稀です。かのスミソニアン博物館の宝石ホールでさえも、ようやく1978年になって無色のルースを入手出来たとのこと。
 1978年当時、4カラット以上の無色透明のグロシュラー・ガーネットは10個を下回り、最大でも8カラットには達しません。
  こうした大きな無色のグロシュラー・ガーネットは全て個人のコレクションとなっています。
 無色以外にもグロシュラー・ガーネットの大きなルースは稀で、せいぜい2カラット程度が普通の大きさです。

 

ハイドロ・グロシュラー・ガーネット(Hydro-Grossular Garnet) ; Ca3Al2 (SiO4)3−x(OH)4x


8.57ct 21x7x6mm
27ct 12x5x2cm 25x16.4x9cm 7x6x2cm 多彩な色のハイドロ・グロシュラーの腕輪 ビーズ 径 7mm
 トランスヴァール、南アフリカ (Transval)  Republic of South Africa
 ハイドロ・グロシュラー・ガーネットと呼ばれるガーネットがあります。
 その名のとおり、ガーネットの珪酸基 (SiO4)の一部が水酸基 (OH)に置き換えられている種類です。
一般には結晶形を示さず,塊状で産出しますが、中には美しい色合いのものがあり、彫刻や宝飾品、装飾用の建築素材として使われます。
 とりわけ南アフリカからは ”トランスヴァール翡翠” と称される、一見翡翠のような色合いと光沢を持つ半透明のガーネットを産し、主に中国に輸出されて写真のような伝統的な彫刻作品が多数出回りました。
 南アフリカのトランスヴァール翡翠は実は世界最大のプラチナ鉱山の坑道の壁の一部がそっくりハイドロ・グロシュラー・ガーネットであったという興味深い産状でした。 
 この鉱脈はブッシュベルト火成複合岩帯と呼ばれる塩基性橄欖輝石鉱床中にクロム鉄鉱、銅、ニッケル硫化鉱に密接してプラチナ、パラジウム,ルテニウム、ロジウム、イリジウム,オスミウム、金等の貴金属が細粒状に濃縮されているものです。
  1920代初期にヨハネスブルグの地質学者、ハンス・メレンスキーによって調査、発見されたことでメレンスキー・リーフと名付けられました。
 白金族の埋蔵量では6000トンを超え、第2位のシベリアのノリリスク鉱床の620トン、第3位、アメリカのスチルウォーターの108トン、第4位、カナダのサドバリーの28トンと比べて桁違いの巨大な鉱床であります。


白金族のような地殻中の含有量が極めて少ない元素がこんなに大量に集まっているのは何故か ? 
 未だに解明されていません。
   一説として2億5千年昔にゴンドワナ大陸を直撃した巨大隕石がもたらした、との仮説があります。
  ニューヨーク大学の地質学者、Michael Rampino教授の説です。
 左の図はそのコンピューターによる再現です。
 巨大な小惑星が8kmと16kmの塊に分裂して現在の南アフリカ南部に衝突し、直径1600kmに達するクレーターを作り、その衝撃波は史上最大の地震の10万倍の規模で地球全体を駆け巡って地球規模での津波と火山噴火と、生物大絶滅と、恐らくはゴンドワナ大陸分裂の引き金になったとの説です。
 カナダのサドベリー白金鉱床が隕石衝突による鉱床であることは現在多くの地質学者が認める事実ですから、ランピーノ教授説にも説得力があります。
(Newsweek Feb.1 1993)

 2006年5月にボルチモアで開かれた米国地球物理学連合の会議で発表された報告によると、南極の氷の下に直径500kmのクレーターが発見され2億5000万年昔に落下した直径50kmの天体によるとのこと。
 おそらく南アフリカに衝突した二つの破片の本体と考えられます(日経サイエンス 2006年9月号)
 
 こうした大事件と比べると、ハイドロ・グロシュラー・ガーネットがひょっとして,この出来事の副産物であったかも知れない,などと言う推定は小さな事柄に過ぎません。 
  けれども個人の家に飾られている彫刻が、こんな地球史上最大の出来事の遺産であると考えるのも楽しいことです。もっとも、多かれ少なかれ,あらゆる鉱物はこうした地球のダイナミックな活動の賜物には違いないのではありますが。
 上の写真上段の東洋的な彫刻はいずれも翡翠として販売されていたものですが、研究所に持ちこまれて,実はハイドロ・グロシュラー・ガーネットであると識別されたものです。
 その名のとおり、水分を含むため普通のグロシュラーと比べると比重が3.30〜3.50、屈折率が1.69〜1.74、またモース硬度も6½〜7と、いずれも低めの値を示します。
 とはいえ、加工されてしまうと、これが何物なのか識別するのは困難で、
X線解析等の専門的な分析が必要となります。



    トランスヴァール翡翠の産出は1920年頃が全盛で現在では鉱脈は枯渇しています。
 メキシコのJalostocの大理石産地からもかつては桃色の美しい塊状のハイドロ・グロシュラー・ガーネットを産出し、J(X)alostocite またはLanderite、Resoliteと呼ばれて高級な室内装飾用の建材に使用されました。
 アメリカ自然史博物館の5階にある図書館の暖炉の壁は緑のベスブ石を含むピンクのハロストサイトで飾られています。

トランスヴァール産のハイドロ・グロシュラー・ガーネット 

39.6ct 36x22x5mm 2.40ct 9.75x7.50mm

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